南雲吉則先生主催「4月3日 命の食事シンポジウム」リポート
特別講演「がんとケトジェニックダイエット」by 白澤卓二

さる4月3日(日)、「命の食事シンポジウム」と題されたイベントが東京都品川区の「ゲートシティ大崎」のホールにおいて開催されました。そう、南雲吉則先生の「命の食事プロジェクト」が本格的に活動を開始したのです。ここでは、白澤卓二JFDA理事長の特別講演をご紹介します。
人間のデフォルトはケトジェニックである!

「命の食事シンポジウム」はまず、南雲先生の基調講演から始まりました。そのあと、特別講演1として、JFDAの白澤卓二理事長が壇上に上がりました。演題は、ズバリ「がんとケトジェニックダイエット」です。
「はい、みなさん、こんにちは。南雲先生からの指定課題『ケトジェニックダイエットとがん』ということで、お話したいと思います。まず、がんの話をする前に、私が最近推奨しているケトジェニックダイエットがどういうものかをお話したいと思います」
ケトジェニックダイエットを紹介する前提として、白澤先生はまず「ケトン体」について語ります。
ケトン体とは何ものか?
われわれのカロリーになっているのは炭水化物と脂肪(アブラ)である。炭水化物は体内で分解されてグルコースになる。一方、脂肪は筋肉でそのまま使われる。ただし、脳に入るには分子が大きすぎるので、一旦肝臓で分解して「ケトン体」というものになる。
つまり、脳の細胞はエネルギー源として2種類使える。ひとつはグルコース、もうひとつはケトン体だ。脳がグルコースを使っている状態を「グルコジェニック」、脂を燃やしてケトン体を使っている状態を「ケトジェニック」と呼ぶ。
1日3食ごはん(炭水化物)を食べているとグルコジェニック、3食肉(たんぱく質)を食べているとケトジェニック状態になる。ただし、そういう極端な食事をとっている人はほとんどいないので、グルコジェニックにあるかハイブリッドであるか、のどちらかの状態にある。どちらも内燃機関と電気モーターの両方を使うハイブリッド車のように、炭水化物と脂の両方をエネルギー源として使っている。
人間は進化の過程で、農耕を始める前はほとんど脂質で動いていたと思われる。農耕を始めたのは1万年前。この1万年の間に炭水化物などを代謝する酵素の遺伝子は変わっていない。つまり、人間のデフォルトとしての遺伝子発現は脂質を分解するようになっている。
その証拠として、人間の赤ちゃんが生まれてきた初日の血中のケトン体の濃度はグルコースよりも高いことがあげられる。母親の胎内にいるとき、胎児はケトン体をエネルギー源にしていたことを表している。
ケトジェニックからグルコジェニックにどこで切り替わるのか? 離乳食を本格的に始めたときである。なぜかといえば、母乳のなかにはケトン体のもとになる脂が入っているからだ。このことは、赤ちゃんの脳の発育にはケトン体が必要だということを意味している。
では、脂と炭水化物は、どのくらい体に蓄えられるか?
炭水化物は筋肉、もしくは肝臓の中にグリコーゲンとして蓄えられている。ところが、朝、ごはんをお代わりして、肝臓をグリコーゲンで満タンにしたとしても5時間ぐらいしかもたない。朝7時にごはんを食べて、10時か11時にお腹がすいてくるのはグリコーゲンが枯渇してくるからだ。
お昼に炭水化物を食べると、そこでグリコーゲンを満杯にできる。それも5時間しかもたないため、夕食が7時だとすると、肝臓のグリコーゲンは空っぽになる。3時に甘いものを食べるのは補給のためだ。このように、体に蓄積できるエネルギー源としての炭水化物は4〜5時間しかもたない。
一方、体重70kgの男性が30%の脂を体の中に持っているとすると、21kgの脂肪を蓄えていることになる。脂肪は1g=9kCal。とすると、およそ180,000kCalになる。人間は1日2000kCalぐらいで生活できる。この男性が脂肪を徹底的に燃やせば、水を飲んでいるだけで1カ月半ぐらいは脂からエネルギーを産生できることになる。
実際、ロシアで飢餓療法を実践しているクリニックがある。すでに数万人を水だけで治療しているという。
日本人の場合は離乳食以来、毎日3食、炭水化物を食べているため、肝臓にグリコーゲンがあるときはこちらを優先的に使う。脂を使うのはグルコースが枯渇した時に限られる。これは日本人だけではなく、アメリカ人もヨーロッパ人もそうで、ということはそういうルールになっている。穀物を主食とした人間が1日3食食べるようになったのは、この特性によるものと考えられる。典型的なメタボの男性は、この小さな山(グルコースの枯渇)を一度も越したことがない人生ということになる。
でも、進化の過程では、脂を燃やす遺伝子発現をもっており、それは現代人にも残っている。どんなに毎日炭水化物を食べていても、脂を燃やしてケトン体をエネルギー源とすることは可能なのだ。
がん細胞は正常細胞の9倍のグルコースを必要とする
ここまではJFDAの会員諸氏、ケトジェニックダイエットとケトン体について知識のある方にとってはお馴染みのことかもしれません。「少しがんのお話をしたいと思います」と、ケトン体の説明を終えた白澤先生はこの日の講演の最重要テーマに方向転換します。
「ハイブリッドエンジンであるということが正常な細胞の話です。じゃあ、がんの細胞はどうなっているのか? がんの細胞というのは『ワーデブルグ効果』というものが働いている。ワーデブルグ効果を理解するためには、細胞の中でグルコースがどうやって燃えるかというメカニズムを理解する必要がある。
(パワーポイントの画像を示しながら)英語で申し訳ないのですが、Tumor(テュモア)と書いてあるのががん細胞だと考えてください。Differntiated tissue(ディファレンティシエイテッド・ティシュー=分化組織)というのが正常細胞です。正常細胞に酸素があるときには、グルコースがPyruvic acid(ピルビン酸)になって、有酸素的にグルコースが燃える。そのときにはグルコース=1モルに対して、36のATP(注:ATPはエネルギーの単位と考えてください)ができる。酸素がない状態では、グルコースがピルビン酸になり、さらにそれが乳酸になって乳酸発酵する。そうすると1モルのグルコースが2モルのATPにしかならない。
有酸素運動の方が効率がいいのは、このことからもわかる。無酸素状態に比べて、18倍のエネルギーが出るということだから。
一方、がん細胞は酸素があってもなくても、有酸素的な代謝は5%しか行われない。酸素がある状態で85%は乳酸代謝が行われる。その結果、酸素があっても4モルのATPしかできない。4と、先ほどの正常細胞の有酸素状態の数値36を比べると、正常細胞に酸素があるときの状態の方が9倍効率よく、ATPを産生できているということになる。
ということは同じ条件下で、がんは9倍、グルコースを必要とする。
ここまでをまとめると、正常細胞はハイブリッドエンジンなのでグルコースとケトン体の両方使える、がん細胞は酸素もケトン体も利用できない。がん細胞は完全にグルコースに依存しており、その依存度は正常細胞よりも9倍も大きい。
糖質制限をすると、通常の細胞はケトン体を使って生き延びれるが、がん細胞はケトン体を利用できないので死滅していく。これがケトジェニックダイエットをやったときに、がんが増殖しない最大の理由になっている」
さらに白澤先生は「悪性グリオーマ」という脳腫瘍のがんの症例をあげます。
非常に浸潤性が高く、手術もできなければ、化学療法もほとんど効かない、余命半年という恐ろしい病です。このがんの患者3人にケトジェニックダイエットを試みたところ、3人とも亡くなっていないというのです。
何が起きているか?
動物実験で調べた研究者がいます。ネズミに悪性グリオーマの細胞を注射して、普通の餌を食べた群とケトジェニックダイエットをした群、それにケトジェニックダイエットにケトン体Sというサプリメントを加えた群、さらに高酸素療法も試みた群、全部で4つの群をつくったのです
この実験の結論は、ケトジェニックダイエットを行うと、がん細胞は完全に栄養が枯渇し、増殖できない状態となって、じーっとしているというものでした。
白澤先生は明るく語りかけます。「それがステージ4のがんになってもあきらめちゃいけない理由になっている」と。
もうひとつ、白澤先生はIGF-1という「成長を支えているホルモン」について語りました。IGF-1がたくさん出ると、成長が早くなる。ところが、このホルモンはがん細胞の成長をも促す。
問題は、牛乳に成長ホルモンが入っていることで、がん患者はこれを避けるべきだという新しい知見を紹介しました。栄養豊富と言われる牛乳ですが、日本のミルクにもアメリカが認可している6つの成長ホルモンのうちの4つが入っている。これにより母乳に含まれるIGF-1に比べて数倍の成長ホルモンを小学生から摂取していることになる。女性では乳がん、男性では前立腺がんが増えている理由がここにあるということです。
「欧米では、『FIGHT CANCER WITH A KETOGENIC DIET(ケトジェニックダイエットでがんと闘う)』という考え方はかなり普及している。たぶん多くの人が初めてこういうことを知ったと思います。がんの治療をしている多くのお医者さんがこの知識を持っていない。だから、このことを普及させて、ステージ4のがんの患者さんの生活の質を上げよう、ということで私どもは、日本ファンクショナルダイエット協会を3年前に設立して、普及活動を続けています。
ご清聴どうもありがとうございました」
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